小説3

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ある日、席替えとなり、翔太の隣の席になったのはコケティッシュで可愛い女の子、璃子だった。璃子は医者の娘で、頭も良く、少し子供っぽいしぐさがかわいらしい女の子だった。翔太はなぜか彩花のような緊張はせず、璃子とは自然に話すことができた。他愛も無い話であっても璃子は翔太をみて、くすくすと笑った。翔太もそんな璃子をみていると「なんだよー」と嬉しくなってくすくすと笑った。二人は授業の合間もおしゃべりをして先生に怒られた。翔太は生まれて初めて味わう幸せな時間を過ごしていた。

ただそんな幸せな時間は長くは続かなかった。やんちゃなクラスメートのきっちーが、翔太と璃子をからかい始めた。「太璃ちゃん、仲良しだね!」とふたりの名前をくっつけたあだ名できっちーがからかうと、翔太はむっとして「コノヤロー!」と追いかけたが、足の速いきっちーは笑いながら逃げていった。からかいは続き、次第に周りの子たちも太璃ちゃん、太璃ちゃんと翔太をからかうようになり、ついに翔太は璃子に話しかけられても、うつむいて何も答えなくなっていった。璃子はからかわれているのを気にしていなかったが、翔太が話してくれなくなり、唇をすこしかんでいるような寂しい表情をした。

ある日、いつものように掃除の時間に、きっちーは翔太をからかいに来た。それは全くいつもどおりの光景だったし、まわりの生徒もいつものことだと思っていた。ただその日はちょっと違っていた。からかわれた瞬間、翔太の頭の中で何か白いものが翔太の脳裏を覆った。理性をつかさどる脳の部位と感情をつかさどる脳の部位の連携が機能しなくなるのがわかった、翔太は感情の脳に体が支配された。そのとき翔太は得も言われぬ気持ちよさを感じた。もう自分は何にも配慮する必要はない、好きにしていいのだ。と。翔太は猿のように飛び跳ねて背後からきっちーに飛びかかった。いつもはやさしい翔太の目は吊り上がり、さながら別人のようだ。翔太は、きっちーを瞬時に床に押し倒した。周囲の机が大きな音を立てて倒れ、クラス中の生徒が二人を見た。「やだーやめて、翔太」いつもはきっちーと一緒になって翔太をバカにした女子生徒がいった。翔太は止まらない、馬乗りになって振り上げた拳がきっちーの頬を叩いた。翔太は生まれてからはじめて、いやそしてこれからのその後の人生でも、最初で最後のこぶしをふるったのだ。殴った感触は感じなかった。極度の興奮状態がすべての間隔を鈍くしたのか。

翔太ははっと気が付き、きっちーを解放した。きっちーは「お前なんだよ、ふざけんなよな。弱いくせに」とふてくされながらもそそくさと教室を後にした。そのとき、目には明らかに翔太への畏怖が見えた。後年になっても翔太はそのことを思い出し、恥じることはなかった。むしろよくやったと思っているくらいだ。本当に追い詰められたとき、自分には戦う力があるのだ、それは気の弱い翔太にとってその後生きていくための糧となった。

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